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長野地方裁判所 昭和33年(ワ)136号 判決

主文

被告は別紙目録記載の不動産について、長野市大字鶴賀緑町千百六番地北沢常雄のため、昭和三十三年三月五日交換による所有権移転登記手続をせよ。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

原告指定代理人は、主文同旨の判決及び予備的に、「北沢常雄が別紙目録記載の不動産について、昭和三十三年八月十五日被告との間になした譲渡担保設定契約はこれを取り消す。被告は別紙目録記載の不動産について、北沢常雄のため所有権移転登記手続をせよ。」との判決を求め、その請求の原因として、

「一 原告(所管庁長野税務署)は、長野市大字鶴賀緑町千百六番地北沢常雄(以下単に滞納者という。)に対し昭和三十三年十月十四日現在昭和三十二年度分及び昭和三十三年度分申告所得税等合計金二百七十一万千百六十円の租税債権を有していて、これが納付方を督促したが、滞納者は現在に至るも納付しない。

二 一方滞納者は被告との間で、昭和三十三年三月五日滞納者所有の土地、建物計五筆(この価格千百万円)を被告所有の別紙目録記載の土地、建物計二筆(この価格二百万円。以下本件不動産という。)と金九百万円の補足金付で交換する契約を締結した。その後滞納者は右約旨に従つて前示不動産につき被告に対し所有権移転登記を経由したが、被告は滞納者に対し補足金九百万円を支払つたのみで、本件不動産の所有権移転登記手続をしない。

三 そこで原告は第一項の滞納処分をなすため滞納者の資産を調査したが、滞納者には本件不動産以外には資産がなく、これを公売して滞納税金に充当するより他に方法がないので、民法第四百二十三条により被告に対し主たる請求の趣旨記載の如き請求に及ぶ。」

と述べ、被告の抗弁事実を否認すると答え、なお、

「四 かりに被告主張のとおり、滞納者が自己の消費貸借債務金百三十万円を担保するため、昭和三十三年八月十五日被告との間に本件不動産について譲渡担保設定契約を締結したものとするならば、滞納者は本件不動産を除いては他に前示租税債務を弁済するに足りる資産を全く有しないにもかかわらず、滞納処分を免れんがため、その情を知れる被告との間に右契約を締結したものであるから、原告は国税徴収法第十五条に基き、被告に対して予備的請求の趣旨記載の如き請求に及ぶ。」

と述べた。

被告訴訟代理人は、「原告の主たる請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする」との、又「原告の予備的請求を棄却する。」との、各判決を求め、答弁及び抗弁として、

「一 原告主張の請求原因第一項の事実は不知。同第二項の事実は認める。同第三項の事実は不知。同第四項の事実は否認する。

二 被告は滞納者に対し、昭和三十三年八月五日金五十万円を弁済期を定めず、利息金百円につき一日金三銭、利息支払期日は元本弁済と同時の約定で貸与したが、その後更に同年八月十五日金八十万円を貸与することとして右金五十万円と合算し、合計金百三十万円を元本として、利息前同様、元本弁済期及び利息支払期日をいずれも昭和三十四年八月十四日と定めて貸しつけ、同時に滞納者は被告に対して右債務の履行を担保するため、左の如き約定により本件不動産を譲渡担保に供し、被告はその所有権を取得した。(一)被告は滞納者に対し弁済期まで本件不動産を無償使用せしめること。(二)滞納者が弁済期までに元本及び利息を完済したときは、本件不動産の所有権は当然滞納者に復帰し、被告は直ちに滞納者に対し本件不動産の所有権移転登記手続をすること。(三)滞納者が弁済期までに元本及び利息を支払わないときは、右使用貸借契約は当然効力を失い、滞納者は被告に対して直ちに本件不動産を明け渡すと共に、被告は確定的にその所有権を取得し、右消費貸借契約は終了すること。

而して本件不動産の登記の点は、被告と滞納者と合意の上、両者間に昭和三十三年三月五日締結された交換契約に基く被告より滞納者に対する所有権移転登記、及び右譲渡担保設定契約に基く滞納者より被告に対する所有権移転登記の各手続を省略し、登記名義を従前のまま被告にとどめることとした。従つて本件不動産の所有権は被告に属し、滞納者は被告に対しこれが所有権移転登記請求権を有しないから、原告の請求は失当である。」

と述べた。

(立証省略)

(別紙目録は省略する。)

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